Abstracts

~~Session 1 (Saturyday, May 21, 10:30-11:30 am CDT)~~

1) ダイバーシティをテーマにしたカリキュラムの考察

Kimiko Suzuki (Haverford College)

コロナ禍でオンライン授業への変更が強いられたことで、今までは見えにくかった、見すごされてきた学生間の生活環境などの差異が垣間みられるようになったと感じた教師もいるかと思う。また、コロナ禍で格差、差別、対立が助長されつつあるが、学生も教師もそれを実感しながら生活しており、日本語クラスはそこから乖離して存在するものではない。昨今、日本語教育でもダイバーシティの大切さに目が向けられているが、国籍や人種などの「表層的ダイバーシティ」(荒金2013)が焦点となってはいないだろうか。岩渕(2021)は、ダイバーシティの推進が社会や組織を豊かにすると肯定的に語られる中で、制度化・構造化された不平等や格差、差別の問題を隠蔽し再生産させてしまうと指摘している。岩渕が指摘する問題もふまえたダイバーシティのテーマに日本語クラスで取り組むことは、私たち自身の生き方や他の人との関係性に気づき、ダイバーシティをめぐる差別や不平等に対して意識を高めることにつながると考える。それは、差別や不平等の問題に自ら向き合い行動していく力を養う機会になるのではないだろうか。では、どのようなカリキュラムが考えられるだろうか。そこで本発表では「技能実習制度を通して見るダイバーシティ」の4年生のカリキュラムを紹介する。まずカリキュラムの目的や学習目標を確認し、カリキュラム内容を見た上でダイバーシティの制度化・構造化の問題を扱う際に参考となる概念を紹介する。また、教師・学生の実体験との関連のさせ方、言語面の学びの取り組み方についても考察する。本発表が今後、日本語クラスでダイバーシティのテーマを取り入れる際の一助となればと思う。

 

2) 日本語クラスを通し異文化間能力(intercultural competence)を伸ばす試み

Kazumi Matsumoto (Ball State University)

近年、パンデミック下でアジア人に対する差別や暴力が増え、また個人の思想や価値観 の違いにより様々な争いが起こるようになり、これまで以上に人々の異文化間能力の向 上の必要性が問われている。異文化間能力とは自分とは違う他者を理解し、受け入れ、 柔軟に対応できる能力のことである。これは異なる文化背景を持つ外国人とのコミュニ ケーションだけではなく、同じ国民同士でも性別や年齢、職業、また、出身地や社会的 地位など自分とは違う価値観を持った他者とのコミュニケーションを円滑に行うための 能力でもある。異文化間能力を伸ばす教育は、まだ柔軟な思考力を持つ幼少期から始め ることが理想的であるが、現実的には、外国語を学ぶ青年期から学び始めることも多 く、さらに、外国語を学ぶだけでは異文化間能力は育たないと言われている。それを踏 まえ、大学で日本語を専攻している学生が小学校で日本語を教えるというコースを開講 し、派遣先の小学校の日本語クラスで行う異文化間能力を向上させるアクティビティを 考えさせ、実際にクラスで実践してもらった。異文化間能力の指標には欧州評議会によ る「民主的な文化への能力参照枠:民主的な文化へのディスクリプター」を使用した。 実践は4・5年生、約100名を対象に、1学期間、週一回一時間実施した。その日本 語クラスでは言語と文化に関する様々なアクティビティが行われ、その中に異文化間能 力向上のためのアクティビティも含まれた。発表では異文化間能力向上のための具体的 なアクティビティを紹介し、小学生の反応や実際に教えた日本語専攻の学生の内省を踏 まえ、今後の日本語コースで使用できるアクティビティを提案したい。

 

~~Session 2 (Saturyday, May 21, 10:30-11:30 am CDT)~~

3) Video Exchange Program Between US College Japanese as a Foreign Language Students and Japanese Middle School Students

Tomomi Kakegawa (University of Wisconsin-Eau Claire)

In this presentation, I will share how Japanese as a foreign language (JFL) students in a 5th semester Japanese class exchanged a series of video clips with Japanese middle school students in Hiroshima. Amidst the COVID-19 pandemic, under Japan’s state of emergency declaration, an English teacher at a Japanese middle school was looking for a project to engage her middle school students in authentic English use. Her search was matched with JFL students’ need for an outlet for their Japanese studies. Hence the groups of students from two separate parts of the world learned from each other even though the pandemic made it impossible to travel to each other’s country.

The JFL students made videos introducing themselves and friends/family, talking about childhood memories, describing their town, and explaining cultural differences between the US and Japan. The middle school students created short videos about self-introduction, interests, and favorite times. This presentation focuses on the JFL students’ side of the experience: how the project was set up, what students did, and results of student surveys about the project, but the middle school students’ anecdotal reactions as shared by their teacher will be presented as well.

This type of exchange was made possible by the educational contexts created by the pandemic since Spring 2020, as both teachers and learners had to learn various technological skills needed to survive in it. All JSL students knew how to create, edit and publish a video online at the beginning of the project, so the instruction could focus on the language and contents. As we advance, the skills we learned out of necessity during the pandemic will only enrich how we teach and learn languages or anything else.

 

4) パンデミックを乗り越えて– COIL Project:日本とアメリカで環境問題を考える

Yukari Nakamura-Deacon (Arizona State University)

パンデミックの到来で今までになかった問題点が明らかになる一方でこのような状況で あるからこそ見えてきた教育に活用できる「強み」も見えてきた。本発表ではアリゾナ州 立大学中級日本語のクラスで行われた南山大学とのCOIL Projectを通して見えてきた「強 み」、そしてその実践報告を紹介する。 2015年の国連サミットで採択された「持続可能でより世界を目指す国際目標」と ACTFL5Cを意識し、アリゾナ州立大学と南山大学の学生同士がアメリカと日本で日常生 活で見られる環境問題への取り組みについて学び合った。テクノロジー使用の良い点(教 師・学生のテクノロジーリテラシーの向上、学生同士のクラス外でのつながり、日本在住 の学生とのコミュニケーション)を生かし、日本とアメリカでの環境問題に対する意識を 高め、問題への取り組み方について学習した。大まかなトピックは教師が指定したが、サ ブトピックは学生自身が考えることとした。学生主体で選んだサブトピックにはライドシ ェアアプリ、電気自動車、ソーラーエネルギー、環境を意識した包装、食料廃棄、持続可 能農業など様々なものがあった。ミーティングの日程の設定、また話し合いはすべてクラ ス外で行い、教師の援助なしで各自好みのソーシャルメディアを通してコミュニケーショ ンを取って学習したことをまとめる課題を与え、学生の積極性、主体性も促した。 本発表では教師、また学生がパンデミックの時だからこそ得ることができた気づき、知識、 スキルを紹介し、学生とのやり取りや COIL 実施後のアンケートで見えてきた今後の課題、 問題点についても言及する。

 

~~Session 3 (Saturyday, May 21, 1:00-2:30 pm CDT)~~

5) 効率的な学習ストラテジーに合ったテクノロジーの活用とは

Yoshiro Hanai (University of Wisconsin Oshkosh)

Shoko Emori (University of Wisconsin Oshkosh)

ここ数年、我々は様々なテクノロジーを使った教材開発と授業活動における活用法を模索し続けて いる。この経験をポスト・コロナの教育現場にも活かしていくことは重要課題の一つだと言えるが、新 しい教材や活動が実際に効率的な学習を促進しているかどうかに関しては多くの課題が残っている ように思う。 本発表では、Dunlosky 他 (2013) の学習ストラテジーの有用性の評価に照らし合わせ、パンデミック 下で使用が増加したとされるビデオやウェブ教材が有用性の低いストラテジーを促進する一因に なっていることがあるという問題点を指摘する。そして、Dunlosky 他で最も有用だとされている practice-testing と distributed practice という2つのストラテジーの重要性を主張し、発表者が開発し たビデオ・ウェブ教材の実践報告を通して、より有用だとされるストラテジーを促進する教材の形を提 案する。 発表で実践報告に使う具体例は、文法の導入ビデオ教材と漢字のウェブ教材である。文法導入ビデオ教材は学習項目の説明に主眼が置かれているものは多く見られるが、practice-testing のストラテ ジーを使った練習を教材の中心に据えることで、より有用性が増すことを示す。漢字教材は、よく使 われるイラストや記憶術を使った学習が有用性の低いストラテジーだとされていることを指摘し、長 期間にかけて繰り返し練習を行う distributed practice を活用した教材の例を提示する。これらの報 告を通して、これまでの経験を新たな環境下でどのように活かすかという議論への貢献を目指したい。

 

6) コロナ禍前後における多読活動

Chie Nozaki (University of Illinois at Urbana-Champaign)

イリノイ州立大学アーバーナ・シャンペーン校にて、2019年春学期より多読の活動を開始以来、本年本学期で、3年目、5学期目となる。本学部では、本大学の太平洋東アジア研究センター(CEAPS)の支援を得て、「にほんご多読ブックス」(NPO多言語多読監修)をはじめとする、多読専門書を数多く所蔵している。コロナ禍以前は、学部の図書館にて、週一回、集まり、全てのレベルの学生を受け入れ、それぞれが、それぞれに合ったレベルの本を選び読むという活動の仕方をしていた。2020年年明けのコロナウィルス感染拡大に伴い、イリノイ大学の全ての機能がオンラインに移行したため、多読活動もまた、やむなく春学期途中で一時休止したものの、秋学期からは、オンラインで活動を再開した。ズームで多読活動を再開するに当たり、これまでとは違い様々な工夫が必要となった。この発表では、参加者アンケートの結果を紹介しながら、オンラインと対面での多読活動を比較する。オンラインでの多読活動をどのように行ったか、オンラインで苦労した点、難点、オンラインで逆に有効だった点、利点、などを紹介し、多様化する教育環境の中での多読活動の展望を考える。

 

7) Applications of Immersive Virtual Reality in Language Instruction: Virtual Campus Tour with Japanese University

Kaho Sakaue (Purdue University)

Yukie Miura (Purdue University)

In this presentation, we will report the findings from the trial of immersive VR in Japanese language education and suggest possible uses. In the fall 2021 semester, we had a project with Nagoya University of Foreign Studies (NUFS) for a Virtual Reality (VR) campus tour project. The goal of this project was to have a VR campus tour, where students from Purdue and NUFS meet virtually and conduct a campus tour. With the collaboration with the faculty at NUFS, students at Purdue introduce their campus in Japanese and students from NUFS in English. We utilized an application called Wander that allows us to go into Google Street view and see 360 degrees. In order to prepare for the virtual campus tour, we took 360-degree photos of Purdue campus buildings and uploaded them to Google Street view. By doing so, when wearing a VR headset, we can explore where the pictures were taken. We also had regular online meetings to get to know each other and have some cultural exchange. We used platforms such as Padlet and Gather.Town to explore the possibility of online communication tools. The immersive VR campus tour was held in November and the students’ overall reaction was positive. They were amazed by the fact they can actually feel like they are in Japan and vice versa.

Through this project, we learned how technology can play a role in language learning and cultural exchange during the pandemic. While it might take some time for VR headsets to become widespread in language instruction, online communication tools such as Gather.Town could be adopted. As technology continues to develop, teachers will need to keep their ears open for new information and be willing to try new things to use the best tools available at the time.

 

~~Session 4 (Saturyday, May 21, 1:00-2:30 pm CDT)~~

8) 日本の字体が正しく表示されない常用漢字の実態-共通の部位を持つ文字に見られる特徴に焦点をあてて-

Ikuko Komuro-Lee (University of Toronto)

コロナ禍で学習者はパソコンや携帯電話に表示される文字を見る機会が増加した。PDF のよ うに、使用する電子機器が異なっていても見え方に違いが生じないものと異なり、学習者がイ ンターネット上で受動的に目にしたり、アプリケーションを用いて自分で打ち出したりする日 本の文字の中には、彼らの使用するパソコンや携帯電話がどの言語に適した環境に設定されて いるかによって漢字の字体が正確に表示されない場合がある。Zoom のチャットや、 WhatsApp、LINE 等のメッセージアプリでも同様のことが起こり得る。字体の違いは、普段日本 語のテキストをただ見ている時には意識されにくいものだが、文字学習や、学習者が日本語の 文字を産出する際には問題となる可能性がある。 私達が電子機器を使って文字を打ち出す場合、キーボードで打っているのは文字そのもので はなく文字コードであり、ある字体と文字コードとが一対一の対応をしていればそこに混乱は 生じない。しかし、国・地域を超えて使用されている国際的な文字コード規格 Unicode (https://home.unicode.org/)には、漢字圏で用いられている字体間の違いが、必ずしも正確に 反映されていないという実態があり(安岡・安岡 2017)、そのため漢字によっては使用する電 子機器の環境等によって日本の字体が正しく表示されないということが起こり得る。そこで筆 者は、常用漢字と、対応する中国・台湾・香港の字体とその文字コードを比較し、日本の字体 が正しく表示されない可能性のある文字を特定した。本発表では共通の部位を持つ漢字に見ら れる特徴を具体的な文字とともに示し、オンラインと対面とが共存するであろうポスト・コロ ナでの教育現場において、漢字指導時に注意を向けたい点について述べる。

 

9) Efficient Vocabulary Retention: How to Implement Spaced Repetition in a Japanese Language Classroom

Miho Nagai (Winona State University)

This paper suggests powerful tools supporting vocabulary retention and learning, providing a strategic way to create a fun activity (online or in-person) that goes beyond the traditional flashcard system. As Wilkins (1970) mentions that nothing can be conveyed without vocabulary, vocabulary is a crucial element for second language learning. The goal of this paper is to demonstrate how long-term retention of new vocabulary can be improved by utilizing (1) spaced repetition strategies and (2) the combination of cues (or texts) and images. The first important tool is spaced repetition that boosts vocabulary learning. Spaced repetition is a memory technique that involves recalling information at spacing intervals until the information is learned at a sufficient level. Once students learn new vocabulary items, it is crucial to skip a few days, rather than practicing them every day, and redirect students’ focus to the words that they have not learned yet. After a few days, a “forced recall exercise” helps strengthen students’ ability to remember vocabulary in the long term. The second important tool is an association technique using memory principles as image associations and storytelling (cf. Klemm 2017), where students can associate what they have already known with new vocabulary. In so doing, cues and realistic images together are used, which works best when associations are explicit. It should be noted that the first ten to twelve minutes of a class session would be so-called retention times where the mind is most ready for the information (cf. Elmer & Elmer 2020). Therefore, I claim that important learning activities should be conducted at the beginning of class. In summary, effectively and strategically using spaced repetition and associational techniques in a Japanese language classroom contributes to improving long-term memory recall and supporting efficient vocabulary retention.

 

10) Unconventional Usages of Gender-based Japanese Sentence Final Particles: A Study of wa and no in Youth Conversations

Yan Wang (Carthage College)

Jessica Childress (Carthage College)

Japanese society’s traditional gender norms are reflected by sentence-final particles (SFPs) in daily conversation, commonly classified as either masculine (e.g., na, sa, zo, ze), or feminine (e.g., wa, no). However, recently Japanese young people have started to use gendered SFPs in “unclassical” ways. This study focuses on male usage of the generally regarded feminine SFPs wa and no. 48 cases of wa ( 39 by males and 9 by females) and 63 cases of no (37 by males and 26 by females) were collected from 12 recorded conversations of Japanese college students on TalkBank database. By comparing those usages with a Discourse Analysis approach, this study demonstrates that although wa and no can be used by males in similar manner to females, both particles display new functions that differ from their original usages. Unexpectedly, wa is used more frequently by males than by females. Like females, males’ usage of wa often shows the speaker’s amae toward the addressee, which is defined as a culturally ingrained dependence on authority figures by Doi (1971). For instance, responding to a female speaker C’s discouraging comment on his utterance, the male speaker E first askes nande “why?” and then follows with moo shaberanai wa ‘I won’t talk anymore. Wa here indicates that E is confident that his seeming self-indulgent utterance will be surely forgiven by C due to amae. Meanwhile, different from the females’ softening function, wa is frequently used by males to enforce an exclamation or strong emotion. On the other hand, no, when used by males, tends to emphasize new information with a tone of assertion as well as unexpectedness rather than the females’ usage of softening or explanation. This study suggests that the new unconventional gender-based usages of SFPs reveal the social changes of gender dynamics in modern Japanese society.

 

~~Session 5 (Sunday, May 22, 9:00-10:30 am CDT)~~

11) コミュニティ参加型プロジェクトをSNAの「つながる」から見る

Tomoko Shibata (Princeton University)

世界とのつながりが大きく変化している現代に生きるために、21 世紀スキルを育成 し、社会とつながっていく必要性がうたわれている(當作2013)。特に外とのつながりが難 しくなり、学習者の孤立化が問題になっている昨今、そのような社会力やスキルの必要性 はますます高まっていると言えよう。その育成に焦点に当てた外国語学習の枠組みとして ソーシャル・ネットワーキング・アプローチ(SNA)がある(當作2013, 2016他)。SNA では「言語・文化・グローバル社会」の3つの領域で、それぞれ「わかる・できる・つな がる」の3つの能力を培うこと、「学習者の関心・意欲・態度・学習スタイルとの連携」 「他教科の学習内容や既習内容との連携」「教室外の人・モノ・情報との連携」を通じて学 習を促進することが目標となっている(當作2013)。本発表では筆者が中上級日本語クラス で行ったコミュニティ参加型プロジェクトを実践例とし、SNA の「つながる」と「連 携」がどのように起こったか説明するとともに、学生たちの学習に対する態度や心境の変 化に焦点を当てて報告する。例えば、1人の学生はプロジェクトで他のメンバーと日本語 のコントや歌をショーで披露することを選んだ。恥ずかしがり屋のその学生が自作のコン トを必死に練習し、観客の前で演じることで、人を楽しませる喜びを見出した。また学生 たちは授業内で学んだイコールサインの概念を実際に自分たち自身がプロジェクトで打ち 破っていることを実感した。SNA の枠組みを使うことで、教師も他者と関わるプロジェ クトを組み立てやすく、学生が体験し感じたことにフィードバックしやすくなるというメ リットもあるだろう。

 

12) 貢献するプロジェクト学習:オンラインPBLからの考察

Yoshimi Sakakibara (University of Michigan)

Makiko Osaka (Hokkaido International Foundation)

本発表は 2021 年の夏に北海道の留学機関で行われたオンラインプロジェクト学習の実践報告であ る。当プログラムは日本語の熟達度の向上、文化・社会的知識の習得、コミュニティーの形成、人や町へ の貢献を目標として行われた。日本側の目的は地域の活性化、コロナ禍における国際交流事業の維持 だった。初級修了以上の学習者を対象にし、教科書を使わず、Project Based Learning(PBL)を行 った。 具体的には週ごとに異なるテーマを掲げ、週の最後に地域住民との交流を図った。例えば、地域おこし のプロジェクトでは、地域の飲食店等にインタビューし、詳細を把握した上で自分たちが立てた企画や作 成物を発表した。これにより、目標である地域貢献を達成できた。また、成績ではなく「クエスト」と呼ばれ る手法で成長を可視化した。これはゲーム理論に基づく方法で、日本語学習を地域の探検ゲームに見 立て、課題提出や出席を促した。また、サブクエストでは課外活動に参加する度に地域の名物を入手で きた。このクエストのおかげで学習者は地域に興味を持つことができた。また、地域住民が名物の説明を 自ら買って出るなど教師を介在しないコミュニケーションも生まれた。このように今回の PBL で達成でき たのは、ACTFL の 5C や3つのモードだけでなく、コミュニティー作り、貢献、学び合いだった。 コロナ禍のオンライン PBL で学んだことはオンラインでも簡単に地域文化に触れることができることや 地域住民が先生、仲間、学生など複数の役割を担えること、そしてお互いの貢献と学び合いの重要性で ある。それは自国にいながら学びの場が広がることを意味している。

 

13) 日本のポップカルチャー:中上級の学習者を対象とした日本語コース

Naofumi Tatsumi (Brown University)

2000年代初頭、日本のポップカルチャーの人気を受け、米国で日本のアニメに関するコースを英語で開講する大学が現れ始めた。だが筆者が知る限り、言語のクラスとして開講されている例は今日でも稀である。これはなぜなのか。それには学習者のレベル、登録者数、カリキュラム、講師の知識と興味等、様々な要因が絡んでいるからであろう。幸い、筆者は米国東部の私立大学にて、3年生レベルの日本語コースとして、Japanese Pop Cultureというコースを開講することができた。本発表はその実践報告である。まずこのコースは、通常のカリキュラムを補強する形で、興味のある者が任意に履修する科目である。秋と夏の学期にそれぞれパート1、2としてオンラインで開講した。秋は実質13週間で、65分授業が週2回、夏は実質6週間で、75分授業が週4回だった。学生数は秋が5名で夏が4名、そのうち1名は両コース履修。題材として漫画やアニメだけでなく、ゲームやアイドルなども扱い、評価としては、従来の試験を発表や作文等に差し替え、形成的評価の課題も増やした。そして学期末に匿名のアンケート調査を行い、教材や課題に関しての学生の反応を調べた。今回はその中でも特にパート2のコースに焦点をあてる。全体として、ジェンダーに関わる話題や、ローカライゼーションに興味がある学生が多かった。また、作品についての記事ではなく、その作品自体を鑑賞し、議論したいという要望もあった。そして教材を選ぶ際に、講師の知識と興味の重要性を実感した。最後に、通常の中上級クラスでも、教材の一部として使える可能性のあるポップカルチャーの題材を紹介する。

 

~~Session 6 (Sunday, May 22, 9:00-10:30 am CDT)~~

14) ポストコロナの日本語授業に向けて:遠隔から対面授業を体験した初級学習者の継続的な観察からわかること

Yuko Takahashi (Smith College)

Atsuko Takahashi (Smith College)

発表者の大学では、2020年秋学期から1年間を遠隔授業、2021年秋学期からは対面授業とした。遠隔と対面授業を体験した日本語初級学習者らはその違いについてどう思ったのか。本発表では、2020年秋学期に遠隔で日本語1年生を履修、2021年秋学期に対面で日本語2年生を続けた学生達にアンケートとインタビューをし、その結果に加え、授業観察やエッセイ等をデータとして分析し報告を行う。まず、遠隔授業ではクイズと試験はopen-bookであったが、対面ではclose-bookになることに対する学生達の反応を調べるため、遠隔授業後と対面授業後の2回にわたり、匿名アンケートを実施した。その結果、試験はopen-bookを望むと回答する学生が多いだろうという教師側の予測に反し、遠隔と対面授業においてclose-bookの試験を望むという回答が顕著であった。これついてopen/close-bookでのクイズや試験のあり方を先行研究 (Gupta 2007、Senkova他 2019、保坂 2020)を参考に分析する。次に、コロナ禍では出席や宿題の提出状況、成績評価の際に教師側に様々な「配慮」が求められた。こういった配慮は学習にどのように影響したのか。学生へのインタビューを元に、遠隔授業と対面授業をそれぞれ担当した教師の対話から考察する。本発表は、遠隔授業を経験した初級学習者を対面授業後も継続的に観察した報告例として、遠隔と対面授業で学習者が感じた違いやそれぞれの学習の有効性について考察し、ポスト・コロナの日本語授業を考える上で、教師側の情報交換や振り返りの機会に貢献できるのではないかと考える。

 

15) クラスでの日本文化体験の実践報告―反転授業で時間を作る

Aya Nakanishi McDaniel (Georgia Institute of Technology)

2020年3月から始まったコロナ禍の影響により、一年以上、オンラインが主流の教育活動が続くことになった。その間に多くの日本語教師が授業のビデオを作成し、テストをオンライン化し、限られた同期型の授業時間内にできるだけ会話練習時間が確保できるように工夫したのではないだろうか。また、コロナ禍では、国際交流基金をはじめ、多くの機関がオンラインイベントを主催し、誰でも、どこからでも参加することができた。また、多くの芸能人も生配信などのオンラインを利用したエンターテインメント方法を模索し、バーチャルコンサートやバーチャル観光なども可能になった。この一年間は、オンライン教育だけではなく、オンラインを利用した人間の活動の幅が大きく広がったと言える。

発表者もオンラインの授業では、VoiceThreadを使用した授業ビデオを作成し、反転授業を行い、授業中の会話練習時間の確保を試みた。また、2021年の秋学期から完全な対面クラスに戻った際、一年間オンラインイベントを通して学んだことを活かし、反転授業を継続しながら、余った授業時間に日本文化体験として、うどん作り、七夕飾り作り、映画観賞会を行った。本発表では、筆者が行った反転授業の概要、日本文化体験の内容、および学生のアンケート結果を紹介する。

 

16) 没入型VRと非没入型VRを交互に使ったオンライン授業の可能性

Kazumi Hatasa (Purdue Univefrsity)
Samet Baydar (Purdue University)
Kaho Sakaue (Purdue University)

没⼊型 VR と⾮没⼊型 VR を交互に使ったオンライン授業の可能性 没⼊型 VR は参加者がゴーグルを装着し仮想世界の中にいる体験を提供するもので、⾮ 没⼊型 VR は PC のディスプレイの中で仮想世界を作り出すものである。本発表ではこ の⼆つを使った新しいオンライン授業の形を試⾏した結果を報告する。没⼊型 VR には Oculus Quest2 が提供する Workrooms と WANDER を使い、⾮没⼊型 VR は Gather.Town を使った。ゴーグルを装着し、Workrooms を起動すると、仮想空間の教室に他の参加 者のアバターが椅⼦に座っている。視線は⾃分なので、⾃分のアバターを⾒ることはな い。教室前⽅にあるホワイトボードにパワポ画⾯を共有をすれば、通常の教室の同じよ うな授業を展開することができる。 その後、ゴーグルを外して、Gather.Town に移動する。Gather.Town はパソコン上で机 や椅⼦などが配置された教室の中をアバターが動き回るといった環境を提供するアプリ である。昔のドラゴンクエストのようなデザインが採⽤されていて、参加者はドット絵 でできたアバターとして現れる。⾃分のアバターは⽮印キーを使って、⾃由に動かすこ とができる。アバター同⼠が近づくとビデオがオンになり、声も聞こえるようになる。 離れるとビデオが消え、声も聞こえなくなる。また、プライベートルームが設定でき、 ⼩さいグループ内の内輪の会話が可能である。Zoom と違い、教員が各部屋を回ってモ ニターすることができるので、ペアワークやグループワークなどがやりやすい。25 ⼈ 以下のグループで使⽤する場合は無料で、時間の制限もない。 WANDER は没⼊型 VR で擬似旅⾏体験を提供するアプリである。教員と学⽣が 360 度画 像の中で会話をしながら⼀緒に旅⾏体験をすることができる。 この⼆つの VR 環境を⾏ったり来たりしながらオンライン授業を進めていくという提案 である。発表では試⾏に参加した学⽣の感想を報告する予定である。